琴ひく埴輪

2014/ 12/ 27
                 
      琴ひく埴輪



           みつらゆふはにわをのこの
           ひさのへに
           いくよへにけん
           をことかなしも
              ――上野 勇――



 ほのくらき土蔵(くら)の中
 窓よりのうすらあかりに
 うくごとく 立てり
 土人(つちひと)

 みづらゆふ 髪はふた分け
 二つの眼 うつゝにひらき
 上向きに 顎はつい出ぬ

 しなやかに前に下げし手
 静やかにおさえしは
 型 鄙びたる
 小琴 一張

 腰かけし 足は浮かして
 そと曲げし 膝にのりたる
 小琴
 そも 音(ね)ありや なしや

 いそのかみ古き昔は
 いかならむ 貴人(あてびと)の
 奥都城(おくつき)の辺のゐて
 かなしくも 奏でし音か

 いく歳を
 塚の暗きに
 汝(なれ)はそも 眼(まなこ)みひらき
 むなしくも
 みつめゐにけむ

 汝(な)が眼(まなこ)
 涙 湧きしならじや

 きくならく
 この蔵の故(もと)の主(あるじ)
 相川の大人(うし)
 こゝだくも 埴輪をめでて
 こゝにしも集めましゝが
 その美しき
 全てにかへて
 汝(なれ)をしも愛(め)でしとぞいふ

 その大人の命の極み
 うつそみの息引き給ふ
 たまゆらに
 汝(なれ)をしも愛(め)でしとぞいふ

 その大人の命の極み
 うつそみの息引き給ふ
 たまゆらに
 汝(な)をみつゝ逝きしとぞ効く
 あはれ あはれ
 琴ひく男の子
 汝(なれ)はもと土くれなれど
 千載経て絶えぬ顔を
 人の心の奥にひくならん


   
   この埴輪は伊勢崎市の相川考古館にあり。
   和田正州、上野勇両氏とゆきて見し事ありき。



今井善一郎著 「白」より  -昭和36年-






琴ひく男子埴輪①
「群馬の埋蔵文化財~古墳時代~」公式サイトより
[琴をひく男子埴輪]
  長方形の椅子に腰かけて、膝の上の琴をひく姿である。顔は丸みのある鼻と細く長い口が特徴的である。欠け落ちているが、つば付きの帽子のようなものをかぶり、下げ美豆良(みずら)で後ろは背中にまで髪を垂らしている。上衣の表現はその裾のみであるが、赤い逆三角形文様の帯を締め、中央に大玉のつく丸玉の首飾り、手には篭手、腰には頭椎(かぶつち)状の大刀をつけており、ハレの場であることが読みとれる。造形は全身におよび、下げた両足には脚結(あゆい)か褌の裾をくくったひもが見える。
  琴は一部破損しているが四絃で琴頭に向かって徐々に幅を広げ、右手の下の位置には絃孔があいている。  こうした琴をひく埴輪は男子に限られており、『日本書紀』などでは神事の際に高貴な人が琴を弾いている。その際にはメロデイーよりも、かき鳴らす音色が重要であった。琴をひく埴輪の中には撥(ばち)を持つものがあり、そうした演奏法の一端を示している。(南雲芳昭)
 時代:六世紀
 出土地:前橋市朝倉
 寸法:高さ72.6cm
 保管等:相川考古館




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