ある小さなスズメの記録 クレア・キップス著 梨木果歩訳 文春文庫

2015/ 03/ 16
                 
  人間とスズメが一緒に生活した記録です。
 一人と一羽、いうなれば二人の生活史ともなっているこの本の原書解説で、ジュリアン・ハクスレーはいみじくも次のように述べています。
 「・・・この本の中に記された、最も意外な事実は、スズメの歌であろう。野生のイエスズメには、歌といえるものはなく、ただ一連の囀(さえず)りか、鳴き声があるだけである。しかるにこのスズメが、飼い主に教えようという思惑もさらさらない中、きわめて自発的に歌い出したというのは、まったくもって前代未聞の出来事である。おそらく、身辺に変わった音がしていることに気づいたとき、それが刺激になって、彼の変わった発生を誘発したのであろう。彼は生れて最初の数カ月で、野生のスズメのそれより、遥かに広がりのある音調や音色の表現形式を獲得したのである。そして絶えずそのレパートリーを増やしていった。キャップス夫人は、彼女がピアノを演奏しているとき、スズメが明らかに昂奮していたことを記している。しかし彼が(単独で)高い音色の旋律の――しかもトリルつきの――本物の「歌」を歌い始めたというのは、まさに驚異そのものである。・・・」

 スズメはクラレンスと名付けられた通りオスの雀です。
 共に過ごしたキャップス夫人との心の交流は、人と人とのつながり以上に濃厚であり、親愛の情に満ち溢れています。
 彼が芸達者であるということは、クラレンスは俳優として舞台で演じたということです。
 そして歌を歌い始めたということは、彼は声楽家としても聴衆の前に立ったということです。

 ほんとにそんなことがあるのかよ・・・と、思う皆さん。どうぞこの文庫本一冊を手に取ってみてください。
 訳者の梨木果歩が文庫本の後書きで「・・・今回の文庫化が、より多くの人びとに「小さなスズメ」へ目を向けていただく機会になればいいと思う。
 何か熱に浮かされたように強大なものへ向かって暴走している今。現代にあって、この小さなスズメが、再び、けなげなにも時代の小さな錘(おも)りの役割を果たしてくれることを願い、また信じている。」という言葉で締め括っています。


《ある小(ちい)さなスズメの記録(きろく)
 人(ひと)を慰(なぐさ)め、愛(あい)し、叱(しか)った、誇(ほこ)り高(たか)きクラレンスの生涯(しょうがい)》

ある小さなスズメの記録-11-

 2015年1月10日 第1刷
著 者 クレア・キップス
訳 者 梨木果歩(なしきかほ)
発行所 株式会社 文藝春秋

 
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