ある小さなスズメの記録 ~特に印象深かった彼のこと~

2015/ 03/ 17
                 
 
 スズメ -12-


 クラレンスの生涯の中で、著者クレア・キップスの終章の中でも、訳者梨木果歩のあとがき及び文庫版あとがきにも、原書解説者のジュリアン・ハクスレーの文章にも、そして小川洋子の解説の中にも触れられていない、次の箇所が、私にとって強く印象に残りました。
 
 《第五章 老いを迎えて》
 『 ・・・   ・・・   ・・・
  ・・・「最後の手段として」
 リチャードソン先生は言った。
 「シャンパンを試してみましょう」
 私は最寄りの店からひったくるようにしてハーフ・ボトルを買ってき(酒屋の主人はひどく面白がっていた)、それをティースプーン一杯、ストレートでスズメに与えた。私は「与えた」と言ったが、この小さな私の同志は、ティースプーンからその不快な薬を、少しも嫌がらずに全部飲んだのだ。彼は明らかに生きる意志を持っており、そして聡明だった。私たちがなんとか彼を助けようとしていることが分かっていた。
 そして次の朝――酒神バッカスの全信者諸兄よ、記しおかれよ――彼の容体は間違いなく快方に向かっていたのである。峠を越したのだ。彼は力を得、そしてそれを我が宝物にして逃さなかった。確実に前へ向かって歩んでおり、後ろを振り返らなかった。
 一日二回、二週間にわたって一定量のシャンパンが与えられた。視力は完全に回復し、羽は裸になったところから再び生えてきた。・・・
 ・・・   ・・・   ・・・
 この目覚ましい回復には、薬はもちろんであったが、食餌もずいぶん貢献したのである。刺激の強すぎる卵やレタスは止め、その代わりブドウ糖とビーマックスを混ぜたものを与え、毎日ほんのちょっと(二滴ほど)肝油も飲ませるようにした。
 このような小さな患者に劇的にあらわれた効果によって、ビタミン食や現代的な薬に対する私の信念は(美味なワインの類は言うに及ばず)、非常に強まっていったのだが、その患者がこれらに対してもった感想というのは、とにかく不快である、ということだけだった。彼がもう一度ミルクにくちばしをつけるようになるのには何週間もかかった。また何か入っているのではという怖れのせいである。ティースプーンが目に入ると、彼はがっくりと小さな頭を落とし、視線をそらすのだった――やんちゃ坊主そっくりに。私はこれほど豊かな表情に富み、「人間っぽい」仕草をする鳥というものを、見たことがない。』



スズメ―11-




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