『皇后の真実』 工藤美代子 幻冬舎

2015/ 11/ 21
                 
 “愛と犠牲”を貫く
 美智子皇后の黙約


 本書は、「週刊新潮」平成26(2014)年4月17日号~12月25日号の連載をもとに修正、大幅加筆したものです。と、巻末の1ページを使って書かれています。
 見落としていた号もありましたので、この度の単行本上梓(2015年10月10日第1刷発行)成って、全編を通してあらためて工藤美代子氏の筆致の清々しさを感じ入ることができました。
 客観的にそれでいて推敲をへた文章の的確さからくる推し測る力に感銘すら覚えます。

 《戦後、人々が皇室を見る目は大きく変貌した。
 「70年を過ぎても、日本人全体がまだ戸惑っています。マスコミも、過剰な敬語を使って絶賛するものから悪意に満ちたものまでいろいろ。私自身、立ち位置をしっかり決めて書かなければと強く思いましたね」
 これほど対象者との距離の取り方が難しい作品はなかったと振り返る。欧米の作家が作品ごとにどのボイスで書くかを決めるように、皇室を扱う場合も、対象によって敬語をどこまで使うかが変わってくるという。
 「今回は、なるべく普通の常識的な"声"で語る以外ないと考えました。

 皇太子妃となるまでは"美智子さん"と記し、民間で育ったお嬢さんが宮中へ輿(こし)入れする世紀の一大事を、記録映像のように淡々と再現した。

 巷(ちまた)はミッチーブームで沸いたが、初の民間妃を待ち受けたのは女官長らの強固な抵抗勢力。当時、東宮教育係でお妃選びの中心にいた小泉信三が、"正田美智子さん"に白羽の矢を立てたのは、家柄、気品に加え、逆境に耐え得る資質を見込んだからである。
 「美智子さんサイドは本当に何度も辞退しているんです。それを小泉さんが一生懸命に正田家を口説いた。でも、彼は甘い言葉は一切言わなかったはずです。逆に、いかに大変かを伝え、だからこそあなたじゃなければダメなんだと。今上天皇もよく頑張られたと思います」
 
 連夜、電話をかけ、長時間にわたって直接説得を重ねられた。"柳行李一つで"の言葉で求婚したという話は、後に天皇自らが否定している。

 美智子皇后に関して流布した噂(うわさ)は数えきれない。なかでも三島由紀夫との見合い説は衝撃的だった。三島本人が語って記事にもなったが、最も真実を知る人物の証言から"三島の妄想"とわかる。
 「みんな信じていたんです。小説家って、ウソをつくんですよ(笑)」
 「『伝説』は文学の領域だが、「事実」は実証性に基づかなければならない」。この一文字に、ノンフィクション作家の矜持(きょうじ)がうかがえる。

 昭和天皇が美智子妃を叱責し、宮中でキリスト教に触れることを禁じたと伝わる「聖書事件」。その真相は、昨年公開された『昭和天皇実録』にあった。「心に思ったことさえなかった」ことが、当の皇族方の目や耳に届かぬところで創り上げられ、信じてられてきたことに驚かされる。平成の世に移ってからも、皇后は新たなバッシングに襲われた。
 「バッシングした雑誌の編集部にいた人は、とにかく売れたと言う。過激な話ほど世間は喜び、売れる。そんな循環ができてしまったんですね」

 多くを語れない分、折々に詠まれたお歌に皇后の心中が覗(のぞ)く。高齢となり、ともに病を抱えながら、天皇と続けられる慰問と鎮魂の旅――。
 「皇后さまはご結婚なさる時から覚悟しておられたはずです。自分の生涯は愛と犠牲を貫くのだと。それを国民との黙約としてご自身に位置づけられた。皇后さまは一貫して変わらない方です」

 めまぐるしく変わる時代の中で、「本書が将来の皇室を照らす一灯になれば」と語る。
  構成・山内喜美子

 「国民との黙約を 人生をかけて守り通す」:SUNDAY LIBRARY -サンデー毎日 11.29号 91ページ所収-


皇后の真実 ② 工藤美代子  幻冬舎

皇后の真実 ① 工藤美代子 幻冬舎


 美智子皇后は、この10月20日に81歳の誕生日を迎えています。
 昨年の10月20日、秦澄美枝氏による釈『皇后美智子さま 全御歌』が刊行され、今年の10月には、『皇后の真実』が工藤美代子氏によって著されました。
 何れも女性ならではのつつましさと、皇后美智子さまと素直に向き合う筆が、読む者の心に伝わってきます。

 《一千年以上もこの〈歌詞〉(=五・七・五・七・七の三十一音の一首で完結する倭歌(やまとうた)が鏤(ちりば)められているからこそ、皇后美智子様の御歌にも、歌詞に内包される日本美と日本人の根源となる信仰から思想までが象徴されるのである。「『皇后美智子様 全御歌』 〈はじめに〉」》

 《「愛と犠牲」については、本書の中でも再三繰り返したが、その行き着いた先に見えてくるのが皇后の今日の祈りの姿なのだと、筆を擱(お)こうとする今、身に染みて納得がいった。「『皇后の真実』 〈あとがき〉」》

 美智子さまのお人柄をよく存じ上げているお二方が世に出した本。
 「皇后美智子さま」を賛歌としてつまびらかにした二つの本をこれからも大切に手元に置いておきたいと思います。

皇后美智子さま 全御歌 ①

皇后美智子さま 全御歌 ②

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