並木藪蕎麦 江戸前ソバ屋の原点 杉浦日向子 ソバ屋で憩う

2016/ 11/ 29
                 
 並木には、江戸前ソバ屋に求められるものはすべて揃っている。

② 並木 藪蕎麦20161129

 『ソバ屋で憩う ―悦楽の名店ガイド101―』の特選五店の最初に、~東京・浅草 江戸前の原点~と添え題をして、並木藪蕎麦(なみきやぶそば)が載っています。

 江戸前ソバ屋の暖簾をくぐるのは、昨年1月24日(土)の、神田まつや以来です。
 
 杉浦日向子さんは、『ソバ屋で憩う… 「初回の客」』文中に、今日も憩いをありがとう。感謝の念で店をあとにする気持ちを忘れずに と述べています。また、本著のまえがき冒頭に、グルメ本ではありません。おとなの憩いを提案する本です。ソバ好きの、ちょいとばかし生意気なこどもは、いますぐ、この本を閉じなさい。十年はやい世界ってものがあるのですよ。と書いておられます。

 ということもありますので、初訪問の私としては、日向子さんの綴る「並木藪蕎麦」を、ここに皆さんに紹介することで筆をおさめたいと思います。

 その前にひと言:(昼どきに出かけましたので、お酒は飲みませんでした。日向子さんは天ぷらそばのことをここには書いておられますが、私たちは天ざるを食べました。〈天ぷらは海老4つとシシトウ1つ〉)



 浅草へついたら、まずなにはさておき、観音様へご挨拶したい。

③雷門 20161129

信心不信心にかかわらず、それが外来の仁義というものだ。よんどころなければ、雷門からの遥拝でもかまわない。「ナム~」ではなくて、「コンニチハ」と頭をさげる。
 並木藪へは、それからだ。

①並木 藪蕎麦 20161129

 雷門を背景に、駒形方面へ二、三分。右手へ木造の仕舞屋(しもたや)があらわれる。名だたる観光地だから、昼どきは行列が人目をひくが、午後三時過ぎれば、うっかり通り過ぎてしまうような地味な店構えだ。

 店に入ると、つきあたりの右手に、菊正宗の薦(こも)かぶりが迎えてくれる。

 メニューは細長い半紙に一品ずつ筆の手で、壁一列にはためいている。できますものは、ざる、かけ、のりかけ、花巻き、玉子とじ、おかめ、山かけ、天ぷら、天ざる、ソバは以上九品(冬場は鴨南〈かもなん〉が加わる)。

④並木 藪蕎麦 お品書き 20161129

つまみは、わさび芋、板わさ、焼き海苔の三品。酒は菊正宗の樽のみ。白い徳利が、白木の桝の袴をはいているところが、いかにも江戸前。江戸の徳利袴は、本来四角い。
 ソバは、手ごね機械打ち。やや色黒の細麺の量は、食事とするにはいかにも軽い。

⑤天ざる 20161129 並木 藪蕎麦

どこよりも辛いもり汁と、甘く薫りたつ箸さばきの良い麺は、長年つれそったヴィンテージの呼気を発散し、全身をつつむ。樽酒の木の香とあいまって、黄昏(たそがれ)のひとときを、このうえなく和(なご)ます。腹を満たすのではない。時を満たすのである。

 仲良しどうしでいったら、かけまたは天ぷらそば、一碗(わん)まわしを食べつつ、つまみとして呑むのもいい。並木のかけ汁で呑む菊正は格別。あつあつのを半分ばかし食いちらかし、おもむろに酒を追加。残り半分は、しばしほったらかしにして、さしつさされつ。さめやらぬころあいをはかって、つゆをたっぷり吸いこんで、グラマラスにふやけた天ぷら(芝エビのかき揚げ)と麺が、丼(どんぶり)中にほぐれていうのを、椀のふちにやさしく接吻(せっぷん)するようにして、口にふくむ。昼下がりの情事。最高にエロチックな、禁断の桃源郷。
 ようこそ、ソバ好き連へ。おとなになって、良かったね。   (杉浦)


 東京都台東区雷門2-11-9
 電話03-3841-1340
 営業11時半~19時半 中休みなし
 定休日 木曜
 ざるそば650円 焼海苔650円

〈※〉『ソバ屋で憩う ―悦楽の名店ガイド101-』新潮文庫 平成11年11月1日発行 平成12年11月15日6版 編著者杉浦日向子とソ連 
 
⑦並木 藪蕎麦

⑨並木 藪蕎麦

⑧並木 藪蕎麦

⑥並木 藪蕎麦

⑩ そば湯 20161129



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