それでもこの世は悪くなかった 佐藤愛子 文春新書 寂しいということ

2017/ 02/ 15
                 
 「はじめに」と「あとがき」の、佐藤愛子氏の人生を写した言葉ことば一つひとつが身に沁みこんできます。
 本文全体を通して、思わず笑ってしまうあのときこのときのことが書かれています。その中で、何カ所かで氏は「寂しい」という言葉を綴っています。
 世にいう、変人、奇人と言われていた、遠藤周作、北杜夫、川上宗薫、色川武夫、中山あい子の諸氏は、氏の数少ない友だちでもありましたが、皆さん既に物故しています。


 亥年のお生まれというと、今年で満94歳の誕生日(1923年〈大正12年〉11月5日or25日生)を迎えることになります。
 文壇ではいつの間にか、瀬戸内晴美(寂聴)さん〈1922年(大正11年)5月15日-〉一人が私の前にいるだけになっていると氏はつぶやいています。その文章の流れの中で、共通の話題を持てる人がいなくなったのは寂しいですが、価値観を共有できないのも寂しいですね。と綴っています。
 寂しいとひとくちに括っても、何に対して寂しいのか、いろいろあるのですね。

 いまの寂しさは何の寂しさですかと問うたら、あなたは何とこたえますか。

 氏が一番長いお付き合いになる北杜夫と初めて会ったのが、25歳くらいの頃だったそうです。

 いつだったか、
「この頃どうなの? 躁のほうは」
と聞いたら、「もう、そんなエネルギーはなくなったよゥ」
と言ってました。エネルギーの過剰な人がヘンな人になるとしたら、あの頃の北さんはもうヘンな人ではなくなっていたのでしょうか。だとしたらおめでとうと言うべきだったかもしれないけれど、私は寂しかった。とても。

 と、その当時を振り返っています。

 氏の語りおろした寂しいこと、ちょっと長くなりますが端折ってはできませんので、そのまま載せます。

 今でも身の回りに起こったことで、これを分かち合いたいとか、一緒に笑いたいとか、思うようなことがあります。遠藤さんならさぞかし喜ぶ話とか、宗薫が喜ぶ話とか、中山さんが喜ぶ話とか、それぞれにあるのね。そんなときには、遠藤さんが、宗薫が、中山さんがいたらなあと思います。いま、この話をしたら喜ぶだろうというような友達は本当にみんないなくなった。それは、もう何とも言えないくらい寂しいですね。
 寂しいですよ。みんないなくなっちゃって。あの人たちがいなくなったってことは、あの時代はなくなった、再びこないってことですからね。それが寂しい。



 『それでもこの世は悪くなかった』は、寂しさを語りおろした本ではなかったですね。
 佐藤愛子氏は、周りから見れば、強い女、たくましい女、怒りっぽい女、元気な女と映ります。
 苦労して人生と戦ってきた結果が、周りからすればそう見えるだけとも、氏はどこかの本で語っていました。

 「あとがき」の最後の行を載せて、読後の感想と致します。

 何も苦しいことがなければ、幸福は生まれないのですよ。幸福を知るには苦労があってこそなんだというのは、苦労から逃げた人にはわからない真理だと思います。
 苦しいことだらけの人生を生きた私は、幸福な人生だったと思うんです。苦しい人生を力いっぱいに生きましたからね。


『それでもこの世は悪くなかった』 佐藤愛子
 2017年(平成29年)1月20日 第1刷発行 発行所株式会社文藝春秋 
 文春新書(780円+税)
それでもこの世は悪くなかった 佐藤愛子著 書きおろし




◇瀬戸内 寂聴(せとうち じゃくちょう、1922年(大正11年)5月15日 -.俗名晴美。僧位は大僧正. 2006年文化勲章受章)

◇遠藤周作(えんどう しゅうさく、1923年〈大正12年〉3月27日 - 1996年(平成8年)9月29 日.『白い人』第34回昭和30年上半期〈1955年〉芥川賞受賞.受賞時年齢32歳)

◇北杜夫(きた もりお、本名:斎藤 宗吉(さいとう そうきち)、1927年〈昭和2年〉5月1日 - 2011年〈平成23年〉10 月24日.『夜と霧の隅で』第43回昭和35年上半期〈1960年〉芥川賞受賞.受賞時年齢33歳)

◇川上宗薫(かわかみ そうくん、1924年〈大正13年〉4月23日 - 1985年〈昭和60年〉10月13日)

◇色川武夫(いろかわ たけひろ、1929年〈昭和4年〉3月28日 - 1989年〈平成1年〉4月10日.『離婚』第79回昭和53年上半期〈1978年〉直木賞受賞.受賞時年齢49歳)

◇中山あい子(なかやま あいこ、1923年〈大正12年〉1月9日 - 2000年〈平成12年〉5月1日)
 (〈※〉本文164ページに「・・・中山さんが亡くなってから知ったのが、ずっと私は彼女を一つ上だと思っていたのに、実際は二、三歳上だったということです。・・・」、「・・・最初にデビューした雑誌が生年月日を間違えて、訂正するのも面倒くさいから、そのままにしたって。・・・」というくだりがありますので、書き添えておきます。)

◇佐藤愛子(さとう あいこ、1923年〈大正12年〉11月5日-.『戦いすんで日が暮れて』:第79回昭和53年上半期〈1978年〉直木賞受賞.受賞時年齢45歳)














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