秋の詩 白秋

2013/ 09/ 28
                 
 
 歌にもなっているからでしょか。島崎藤村の詩「初恋」の一節をそらんじている方もいらっしゃると思います。
 北原白秋の詩「初恋」は、詩集「想ひ出」の中に6行さりげなく入っています。

薄らあかりにあかあかと踊るその子はただひとり。
薄らあかりに涙して
消ゆるその子もただひとり。
薄らあかりに、おもひでに、
踊るそのひと、そのひとり。



 「水墨集」の中から秋を拾ってみました。

北原白秋 初秋の空 二階の書斎より

ああ、あの瑠璃(るり)の満ち満つ
空の深さ。
ああ、この緑と薄黄(うすぎ)との
輝く孟宗(まうそう)を透(す)かして。

未(いま)だに激しい残暑(ざんしょ)の陽射(ひざし)、
つくつくほうし、
しかもいち早い秋の微風(びふう)は
揺(ゆ)れうごく笹(ささ)のしだれを超(こ)す。

あ、揚羽(あげは)が来た、黒い翅(つばさ)を張って、
ひらきらと潜(くぐ)り抜ける。
親しい、それも厳(おごそ)かな
吹かるる、おのづからの姿。

季節は風と光に乗る、
凡(すべ)ては流るる、有(あ)りの儘(まま)に。
まかせよ、さながらの薫(かを)りを、
まかせよ、寂(さ)びと獟(しを)りと。

ああ、あの瑠璃(るり)の満ち満つ
空の深さ。
ああ、この緑と薄黄との
輝く孟宗(まうそう)を透(す)かして。




「落葉松」と書いて「からまつ」と読む、白秋の詩。
 歌になっているということもあるのでしょう、世代を超えて親しまれている詩の一つです。
 「一」から「八」まであります。

北原白秋 落葉松

 一

からまつの林を過ぎて、
からまつをしみじみと見き。
からまつはさびしかりけり。
たびゆくはさびしかりけり。

 二

からまつの林を出(い)でて、
からまつの林に入りぬ。
からまつの林に入りて、
また細く道はつづけり。

 三

からまつの林の奥も
わが通る道はありけり。
霧雨(きりさめ)のかかる道なり。
山風(やまかぜ)のかよふ道なり。

 四

からまつの林の道は
われのみか、ひともかよひぬ。
ほそぼそと通(かよ)ふ道なり。
さびさびといそぐ道なり。

 五

からまつの林を過ぎて、
ゆゑしらず歩みひそめつ。
からまつはさびしかりけり。
からまつとささやきにけり。

 六

からまつの林を出(い)でて、
浅間嶺(あさまね)にけぶり立つ見つ。
浅間嶺にけぶり立つ見つ。
からまつのまたそのうへに。

 七

からまつの林の雨は
さびしけどいよよしづけし。
かんこ鳥鳴けるのみなる。
からまつの濡(ぬ)るるのみなる。

 八

世の中よ、あはれなりけり。
常(つね)なけどうれしかりけり。
山川(やまがは)に山がはの音、
からまつにからまつのかぜ。



日本詩人全集 7 北原白秋 新潮社刊・所収




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