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夏は青い空に……  中原中也 白い雲のかなたに

2020/ 08/ 08
                 

 白雲よ汝(な)れは中也かどこまで流る


 345-2.j


 多くの詩人が夏をうたっています。
 中也もまたしかりです。
 夏は青空の中に白い雲が浮かびます。
 羊〈※註〉になることができなかった中原中也は、『山羊の歌』を遺しました。
 和洋の宗教観が混在する中也の詩は、ときとして朗読する者の心をおだやかならざる対岸におくこともありますが、それはまた、ときとして救いを求めるその心象にわが身を擬えることにもなるのです。
 
  〈※註:聖書に記す、「羊を右に、山羊を左に」〉


 345-1安曇野の空 9月



 夏は青い空に……  中原中也

夏は青い空に、白い雲を浮ばせ、
 わが嘆(なげ)きをうたう。
わが知らぬ、とおきとおきとおき深みにて
 青空は、白い雲を呼ぶ。
わが嘆きわが悲しみよ、こうべを昂(あ)げよ。
 ――記憶も、去るにあらずや……
湧(わ)き起る歓喜のためには
 人の情けも、小さきものとみゆるにあらずや
ああ、神様、これがすべてでございます、
 尽すなく尽さるるなく、
心のままにうたえる心こそ
 これがすべてでございます!
空のもと林の中に、たゆけくも
 仰(あお)ざまに眼(まなこ)をつむり、
白き雲、汝(な)が胸の上(へ)を流れもゆけば、
 はてもなき平和の、汝がものとなるにあらずや


  246-2 山羊の歌