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犬のパピルス  管 啓次郎

2018/ 01/ 28
                 
子どものころ犬を飼っていた
名前はパピルス、虎毛
どこへでもついてきた
春先には黒い土に
うっすらつもる雪をふむ
耳がちぎれそうに冷たい風が吹く
大声で「えっとうたいだ」と叫ぶと
パピルスがおもしろそうな顔で見た
耳は狼のように立ち
尾は竜巻のように巻き
目は光のように鋭い
パピルスは半世紀前フィラリアで死んだ。
昨年の夏タイの古都アユタヤで
歩き疲れて木陰ですわっていると
黄土色の犬がおとなしくやってきて
ちょこんとそばにすわった
鼻面がすっきりと黒い
耳のうしろを掻いてやると
笑うように目をほそめた
「パピルス」と声をかけると
ものうげにゆっくりと尾をふった。


   待っているよ、きみを
   あの山のふもとで
   きみがその頂きをめざすとき
   ぼくもついていく
   ぼくはパピルス
   きみの心にあって
   きみが忘れたすべてを
   ぼくが覚えておくよ





 管 啓次郎(すが けいじろう)
   1958年9月3日生れ 

 詩集『数と夕方』発行所:左右社 2017年9月21日 第一刷発行
         定価:本体2400円+税 文庫版変形/320ページ

 詩集四部作(2010年~2013年)・発行所:左右社
  『Agend`Ars』
  『島の水、島の日』
  『海に降る雨』
  『時制論』

 その他、著書、翻訳、共著などなど多数割愛





2-2 松下 20171227 翡翠


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