FC2ブログ
        

草稿の詩「雲」 中原中也

2020/ 10/ 17
                 

 ふと思う雲に中也は何を見る


 20201017雲2.


 詩人たちの「雲」をうたった詩をときおり思い浮かべます。
 山村暮鳥の雲、高村光太郎の雲は、完成された詩となって世に出ています。
 一方、中原中也の雲は大岡昇平編集本に載せている通り、未刊詩篇に収めています。
 「編註」によると、「雲」は「原稿用紙その他」に記されている「草稿」となっています。
  草稿であるが故か、感性のままに書き連ねた一連の詩には、世間によく知られている中也の詩と並べてみると、韻律など何か不安定感を覚えます。
 仮に、世に出そうとは思っていなかった詩・・・だったとしても、16行の詩の世界にいつの間にか引きずり込まれていく自分を感じました。
 枯草を背に敷いて、雲を眺めている。
 ・・・ 山の上には雲が流れていた ・・・
 山の上に寝て、空を見るのも
 此処〈枯草の上に寝転んで〉にいて、あの山をみるのも
 所詮は同じとうたっています。



   雲  

山の上には雲が流れてゐた

あの山の上で、お辯當を食つたこともある……  
  女の子なぞというものは
  由來櫻の花瓣(はなびら)のように、      
  欣(よろこん)んで散りゆくものだ

  近い過去も遠いい過去もおんなじこつた
  近い過去はあんまりまざまざ顯現(けんげん)するし  
  遠いい過去はあんまりもう手が届かない

山の上に寢て、空を見るのも   
此處(ここ)にいて、あの山をみるのも   
所詮(しょせん)は同じ、動くな動くな   

あゝ、枯草を背に敷いて   
やんわりぬくもつてゐることは  
空の靑が、少しく冷たくみえることは   
煙草を喫ふなぞということは      
世界的幸福である

 〈「中原中也全集 第2巻 詩Ⅱ」 1967年11月20日印刷發行 著者中原中也 編者大岡昇平 發行所角川書店〉
関連記事
スポンサーサイト



                 

コメント