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秋の詩 のり子

2013/ 09/ 22
                 
 今更申すまでもない、茨木のり子。
 いつの間にか鬼門に入ってそこそこの年月が経っているのですね。
 彼女の詩風にして、「秋」はみつかるのかなとも思いましたが、ありました。
 「もっと強く」の詩の中に「秋」があることを今まで見過ごしていました。


茨木のりこ もっと強く

もっと強く願っていいのだ
わたしたちは明石の鯛がたべたいと

もっと強く願っていいのだ
わたしたちは幾種類ものジャムが
いつも食卓にあるようにと

もっと強く願っていいのだ
わたしたちは朝日の射すあかるい台所が
ほしいと

すりきれた靴はあっさりとすて
キュッと鳴る新しい靴の感触を
もっとしばしば味いたいと

秋 旅に出たひとがあれば
ウインクで送ってやればいいのだ

なぜだろう
萎縮することが生活なのだと
おもいこんでしまった村と町
家々のひさしは上目づかいのまぶた

おーい 小さな時計屋さん
猫背をのばし あなたは叫んでいいのだ
今年もついに土用の鰻に会わなかったと

おーい 小さな釣り道具屋さん
あなたは叫んでいいのだ
俺はまだ伊勢の海もみていないと

女がほしければ奪うのもいいのだ
男がほしければ奪うのもいいのだ

ああ わたしたちが
もっともっと貪婪(どんらん)にならないかぎり
なにごとも始りはしないのだ

日本詩人全集 34 昭和詩集(二) 新潮社刊・所収




茨木のり子 急がなくては

急がなくてはなりません
静かに
急がなくてはなりません
感情を整えて
あなたのもとへ
急がなくてはなりません
あなたのかたわらで眠ること
ふたたび目覚めない眠りを眠ること
それがわたしたちの成就です
辿る目的地のある ありがたさ
ゆっくりと
急いでいます

「わたくしたちの成就」 茨木のりこ著 童話屋刊・所収





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