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きょうは七夕です②

2012/ 07/ 07
                 
交遊録 海原 純子 2 

2代目猫の見事な生涯

 心療内科の診察では患者さんの話を聞くことが基本である。いや診察だけでなく、人と人とのかかわりで大切なのは、相手の話を聞き、その気持ちを理解しようとすることだろう。
 私は講演会などで、聴衆の方からよく「悩んだり落ち込んだりしている友人や家族がいたら、どう対処すればいいのですか」と聞かれる。多くの方は身近に悩み落ち込んでいる人がいると、「手助けして早く治ってもらおう」と頑張って肩に力が入ってしまう。
 しかし、落ち込んでいる人がいた時、そばにそっと寄り添い、必要ならば話を聞き、その人の気持ちを想像して同じ気持ちになってみる、というただそれだけで、悩んでいる人はずいぶん救われた気持ちになるものだ。
 30代から40代にかけて16年近く共に暮らした2代目の猫、アメリカンショートヘアのダダからは、本当に大きなサポートをもらった。人に嫌なことを言われて落ち込んだりすると、気配を察してそっとそばに寄り添い、背中をなでさせてくれる。ゴロゴロというご機嫌な返事を聞いていると、ほっと力が抜ける。カウンセラーの要素十分のダダだった。
 ダダは私のエッセーのネタやライブトークのネタも作ってくれた。なかでも、嫌なことがあった時や嫌な相手に出会った時のダダの反応を観察すると、これはストレス対策にぴったり、と思ったことがしばしばあった。
 嫌なことがあった時、ダダははっきりノーと言う。決してじっと黙って我慢はしない。しかし一度怒ると次の瞬間はもう忘れて、いつまでもおこり続けてはいない。例えば、事務所のスタッフの若い女性が、コンロのそばにいるダダに気づかずに点火し、ダダのヒゲが焦げたことがあった。ダダは一瞬激しく怒ったが、2分後にはケロリと尻尾を立てていた。それを見た私は「お見事!」と思った。
 人間はこうはいかない。ぐっとこらえて顔に出さないが、いつまでも心の中で怒りが持続したり、思い出し怒りなどに陥ったりする。
 数々のヒントを与えてくれたダダは、16歳目前で突然亡くなった。胸部の悪性腫瘍破裂で呼吸困難に陥り、酸素テントの中に横たわりながらも、私が片手で背中をなぜるとゴロゴロと喉を鳴らし、穏やかで幸せそうな表情を見せてくれた。ダダも私も家族も、皆がお互いに過ごせる時間はあとわずかだと気づきながら、そのひとときを大切に過ごした。それは悲しいが宝石のような時間だった。
 別れはつらかったが、しばらくしてまたダダにそっくりの猫との暮らしが始まった。それが今共に暮らす3代目アメリカンショートヘアのミーと、4代目のやんちゃなフーである。                                            (心療内科医)

交遊録 梅原純子 2
   東京都都内の自宅で (写真はフー)   ❀ 繁田統央撮影

2012年(平成24年)7月6日(金曜日)     夕刊  讀 賣 新 聞


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