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安住の場は「お隣同士」

2012/ 07/ 20
                 
交遊録  海原 純子 4

 3代目同居猫のミーは静かで全く手のかからない猫である。朝早く私を起こすこともないし、マーキング(おしっこで縄張りを示すこと)もしないし、私が原稿を書いていると机の上でおとなしくしている。

 それまでに飼った猫はオスだったが、ミーはメス。そこで「女の子の猫は一緒に住むのに最適だ」と思い込んでしまった。1匹も2匹も手間は同じだろう、それならひとりでじっと帰りを待っているミーに友達がいたら、互いに仲良く過ごしてくれるのではないか。そう考えて、ミーが4歳の時、同じアメリカンショートヘアの女の子を飼うことにした。それがフーである。

 しかし、お互いに仲良く支え合い、私の帰りを待つ、などということは、猫格も価値観も全く違う2匹にとっては、あり得ないことだった。それはフーがわが家に来て数時間で明らかになった。
 空を眺めもの思いにふけるミーに、フーは遊ぼう遊ぼうとじゃれる。逃げまどうミー、追いかけるフー、バタバタとすさまじい音。置いてあった物を倒し、2匹の猫は突風のように走り回る。おとなしいミーもついに「フーッ」と毛を逆立てる。ミーがこんな声を出すのは初めて聞いた。

 フーは当初もっといい名前があったのだが、あまりに頻繁にミーに「フーッ」と威嚇されたので、いつしかフーちゃんという通称が正式な名前になってしまった。しかしフーのすごいところは、何度「フーッ」と言われ続けても、全くめげることもミーを嫌うこともなく「遊ぼう」コールを繰り返すことである。一方のミーも、どんなに「遊ぼう」コールをされても自分ひとりのメディテーション(瞑想)空間を確保しようとし、「フーッ」と先輩猫の尊厳を示して譲歩しない。
 
 そんな2匹の姿を見て、人間の世界での「お互いにいい人なのに価値観が違うんですよね」というせりふと共通しているなあと思いつつ、人間が諦めることにした。ミーは自宅に、フーはオフィスにと、別居させることにしたのである。

 当初オフィスは自宅と同じ建物の2階にあったが、フーが来て2年後に同じ階に引っ越し。さらに2年待って自宅の隣の部屋が空くと、再度引っ越しをした。だから今、ミーとフーはベランダ越しに顔を合わせ、私は自宅とオフィスを行き来している。

 生活費に占める食費の割合がエンゲル係数なら、生活費のうち猫にかかる費用の割合はニャンゲル係数、と猫仲間は言う。引っ越しを含めるとわが家のニャンゲル係数は相当高いなあ、と思うものの、ミーとフーのいる生活から、目に見えないがすてきなエネルギーをもらっていることは確かである。 (心療内科医)  (おわり)

2012年(平成24年)7月20日(金曜日)   夕刊   讀 賣 新 聞
  ❀繁田統央撮影  東京都内で(写真はフー)

交遊録 海原純子 4





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