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春の詩 俊太郎

2015/ 03/ 10
                 

 谷川俊太郎の詩『春に』は、中学校の国語教科書に載っています。東京書籍では1年の、光村図書では2年の教科書におさめられています。


谷川俊太郎 『春に』           

 
この気もちはなんだろう
目に見えないエネルギーの流れが
大地からあしのうらを伝わって
ぼくの腹へ胸へそうしてのどへ
声にならないさけびとなってこみあげる
この気もちはなんだろう
枝の先のふくらんだ新芽が心をつつく
よろこびだ しかしかなしみでもある
いらだちだ しかもやすらぎがある
あこがれだ そしていかりがかくれている
心のダムにせきとめられ
よどみ渦まきせめぎあい
いまあふれようとする
この気もちはなんだろう
あの空のあの青に手をひたしたい
まだ会ったことのないすべての人と
会ってみたい話してみたい
あしたとあさってが一度にくるといい
ぼくはもどかしい
地平線のかなたヘと歩きつづけたい
そのくせこの草の上でじっとしていたい
大声でだれかを呼びたい
そのくせひとりで黙っていたい
この気もちはなんだろう





                 
        

春の詩 直子

2015/ 03/ 10
                 
 工藤直子 『おしらせ』うさぎふたご
  〈「野原はうたう」より〉

みみのさきの
すべすべ やわらかいところが
いちばんさきに
はるになります

それから
しばらくして
のはらじゅうが
はるになります


20150310-2-白椿
 <庭の白椿-2015年3月10日撮影->


                 
        

春の詩 直子

2015/ 03/ 10
                 
  工藤直子 『ねがいごと』  たんぽぽはるか
  〈「野原はうたう」より〉
           

    
     あいたくて
    
    あいたくて
    
    あいたくて  

    あいたくて・・・
   
    きょうも
    
    わたげを
       

 






                 
        

 春の詩 賢治

2015/ 03/ 09
                 
 宮沢賢治 『早春独白』
  《「春と修羅 第二集」より


                  一九二四、三、三〇、

   

   黒髪もぬれ荷縄もぬれて

   やうやくあなたが車室に来れば

   ひるの電燈は雪ぞらにつき

   窓のガラスはぼんやり湯気に曇ります

      ・・・・・・青じろい磐のあかりと

        暗んで過ぎるひばのむら・・・・・・

   身丈にちかい木炭(すみ)すごを

   地蔵菩薩の龕(がん)かなにかのやうに負ひ

   山の襞もけぶってならび

   堰堤(ダム)もごうごう激してゐた

   あの山岨のみぞれのみちを

   あなたがひとり走ってきて

   この町行きの貨物電車にすがったとき

   その木炭(すみ)すごの萓の根は

   秋のしぐれのなかのやう

   もいちど紅く燃えたのでした

      ・・・・・・雨はすきとほってまっすぐに降り

        雪はしづかに舞ひおりる

        妖(あや)しい春のみぞれです・・・・・・

   みぞれにぬれてつつましやかにあなたが立てば

   ひるの電燈は雪ぞらに燃え

   ぼんやり曇る窓のこっちで

   あなたは赤い捺染ネルの一きれを

   エヂプト風にかつぎにします

      ・・・・・・氷期の巨きな吹雪の裔(すゑ)は

        ときどき町の瓦斯燈を侵して

        その住民を沈静にした・・・・・・

   わたくしの黒いしゃっぽから

   つめたくあかるい雫が降り

   どんよりよどんだ雪ぐもの下に

   黄いろなあかりを点じながら

   電車はいっさんにはしります

 

                 
        

春の詩 のり子

2015/ 03/ 09
                 
 茨木のり子『さくら』
   《詩集「おんなのことば」より》


   ことしも生きて

   さくらを見ています



   ひとは生涯に

   何回ぐらいさくらをみるのかしら

 

   ものごころつくのが十歳ぐらいなら

   どんなに多くても七十回ぐらい

   三十回 四十回のひともざら

 

   なんという少なさだろう

   もっともっと多く見るような気がするのは

   祖先の視角も

   まぎれこみ重なりあい霞(かすみ)立つせいでしょう



   あでやかとも 妖しいとも 不気味とも

   捉えかねる花のいろ

 

   さくらふぶきの下を ふららと歩けば

   一瞬

   名僧のごとくにわかるのです



   死こそ常態

   生はいとしき蜃気楼と



20150310-1-
 〈庭のプチサクランボ-2015年3月10日撮影->